9月16日に開かれた労働条件分科会で、今後の議論の進め方が示されました。勤務間インターバル制度、連続勤務規制、「つながらない権利」、裁量労働制、変形労働時間制、副業・兼業、テレワーク・フレックスタイム制、そして過半数代表者、法定休日、年次有給休暇。この論点を月2〜3回程度の頻度で議論していくという案です。
これから改正案が形になるまで、同じ話題が何度も報じられます。そのたびに振り回されないよう、この連載では毎回、何が議論されたか・それが今どの確定度にあるか・今やるべきことと今はやらなくていいことの三つに整理してお届けします。
第1号は、このなかで最も実務に近い過半数代表者を取り上げます。法改正を待たずに、今日から手を打てる論点だからです。
現在、過半数代表者の選出手続は労働基準法施行規則(省令)に置かれているだけです。これを法律そのものに規定するかどうかが、正面から議論されました。
労働者側は「選出手続に問題があった場合には当該協定は無効になることを法律で明確に定めるべき」と主張しています。仮にこの方向で固まれば、形だけの選出で結んできた36協定や各種の労使協定の有効性が、これまでより厳しく問われることになります。
そして重要なのは、選出手続の是正は法改正を待つ必要がないという点です。現行の施行規則でも既に求められている水準であり、今日から整えられます。
示された論点は、大きく五つです。右端の「確定度」は、審議会の決定ではなく、これまでの議論の流れからみた弊事務所の見立てです。
| 論点 | いまの位置づけ | 検討されている方向 | 確定度 |
|---|---|---|---|
| 選出手続の要件 | 労働基準法施行規則6条の2第1項(省令) | 適切な労使コミュニケーションの基盤整備のため、法律に規定することをどう考えるか | ○ |
| 過半数代表が担う役割 | 明文の規定なし | 適正に選出された過半数代表者は、労使協定の締結等に向けて、労働者の意見の集約など、事業場の全ての労働者の公正な代表として手続を行うべきことを法律に規定することをどう考えるか | △ |
| 情報提供・便宜供与 | 「必要な配慮」(施行規則6条の2第4項)と通達 | 選出に必要な情報や事業場内の働き方の実態に関する情報の提供、活動のための便宜供与を法律に規定することをどう考えるか。労働時間の中で賃金を失うことなく活動すること等の金銭的な便宜供与を法律上明確化する場合、労働組合法の不当労働行為に当たらない旨も明確化することをどう考えるか | ○ |
| 不利益取扱いの禁止 | 労働基準法施行規則6条の2第3項(省令) | 実効的なコミュニケーションを行い得る環境整備のため、過半数代表者であること等を理由とした不利益取扱いがなされないよう法律に規定することをどう考えるか | ◎ |
| 指針 | なし | 法律に指針の根拠を規定した上で、選出や活動において留意すべき事項、選択肢となる取組などを指針に定めることをどう考えるか | ○ |
報道では「過半数代表者の適正化」とひとくくりに語られますが、実際の議論はいくつかの点で真っ二つに割れています。ここを知っておくと、今後のニュースの読み方が変わります。
つまり争点は「適正な選出が必要か」ではありません。そこは全員が一致しています。割れているのは、手続に瑕疵があったときに協定を無効にするところまで法律で書くかです。ここが厳しい方向に決まるほど、日頃の選出実務の重みが増します。
病院と訪問看護ステーション、特別養護老人ホームと居宅介護支援事業所、複数の施設。事業場を複数お持ちの法人には、この行方がそのまま実務に響きます。現時点で確実なのは、事業場ごとに選出しておくことです。
太い帯が今回調査(令和7年5月1日時点)、その下の細い帯が前回調査(平成29年10月1日時点)です。
赤の二つを合わせた16.0%が、選任が適正に行われていない事業所です。前回の27.6%からは大きく改善しましたが、それでもおよそ6事業所に1事業所。この数字が残っていることが、法律への格上げを後押ししています。
過半数代表者の職位別に選出方法を見ると、はっきりした傾向が出ています。「使用者が指名」の割合です。
役職が上がるほど、選出手続が省略されています。そもそも管理監督者は36協定の締結当事者になれませんから、この層の選出は、手続の問題と資格の問題が重なりやすいところです。医療機関・福祉施設でいえば、看護部長・施設長・事務長がこれに当たり得ます。
| 過半数代表者ご本人の回答 | 割合 |
|---|---|
| 会社側との協議や労働者からの意見聴取等を行った | 65.5% |
| 協議や意見集約は行わず、使用者の指示に従って協定書にサイン等をしたのみであった | 34.5% |
| 活動時間についても通常勤務した場合と同様に賃金が支払われた | 33.4% |
| 過半数代表手当等の追加的な手当が支払われた | 27.6% |
| 締結する労使協定等の内容について情報提供や説明を受ける機会があった | 12.1% |
| 会社からの配慮はなかった | 22.2% |
| 活動を負担に感じた(「非常に」23.4%+「やや」47.5%) | 70.9% |
いま議論されている「情報提供」「便宜供与」「不利益取扱いの禁止」は、いずれもこの数字を背景にしています。逆にいえば、ここに手を打っている法人は、法改正が来ても慌てる必要がありません。
ここからが本題です。同じ論点でも、業種によって効き方がまるで違います。交替制で回し、職種が多く、事業場が分かれている医療・福祉は、この論点の影響を最も強く受ける業種のひとつです。
過半数代表が関与するのは36協定だけではありません。1か月単位の変形労働時間制(労基法32条の2)、1年単位の変形労働時間制(32条の4)、休憩の一斉付与の例外(34条2項ただし書)、時間単位年休(39条4項)、年休の計画的付与(39条6項)、年休中の賃金の定め(39条9項ただし書)、賃金の一部控除(24条1項ただし書)、育児・介護休業法の除外協定。交替制で回す医療機関・福祉施設は、このほとんどを締結しています。選出に瑕疵があれば、その全部が同時に揺らぎます。
病院と併設の訪問看護ステーション、特別養護老人ホームと居宅介護支援事業所、複数の保育所や施設。これらは原則としてそれぞれ別の事業場です。本部でまとめて一人に署名させていないか、ご確認ください。一括手続の是非は、前述のとおり今まさに争われている論点です。着地が見えるまでは、事業場ごとに選出しておくのが安全です。
施行規則6条の2第1項1号は、労基法41条2号の監督又は管理の地位にある者でないことを要件としています。看護部長、施設長、事務長が「まとめ役」として署名していないでしょうか。なお、管理監督者しかいない事業場では、就業規則の作成・変更に係る意見聴取などに限って管理監督者を選出できます(同条2項)。36協定の締結当事者にはなれません。
過半数代表者が意見を集めた方法の第1位は職場集会(57.9%)ですが、三交替や夜勤専従、登録ヘルパーを抱える職場では、全員が同じ時間に集まれません。周知と意見集約の手段(院内掲示・グループウェア・電子メール・紙のアンケート)を、あらかじめ決めておく必要があります。選出開始の周知について「一部の事業所に周知」6.7%、「周知していない」8.3%という数字が出ていますが、周知の漏れは、そのまま手続の瑕疵になり得ます。
意見集約を負担に感じた理由の第1位は「労働者の意見が職種や雇用形態によって異なるから」で64.0%でした。医師、看護職、介護職、リハビリ職、事務、調理、送迎、パート、嘱託、夜勤専従。医療・福祉は、この条件を最も強く満たす業種です。「事業場の全ての労働者の公正な代表」という考え方が法律に入れば、この多様さへの対応が正面から問われます。複数代表者を選出している事業所は全体で2.8%とまだ少数ですが、負担軽減の選択肢として審議会でも検討が進んでいます。
「労働者の過半数」の母数には、パート・アルバイト・嘱託・休職中の職員・管理監督者も含みます。正職員だけで過半数を数えていないでしょうか。非正規比率の高い法人ほど、ここを取り違えると母数そのものが誤りになります。
ここまでは業種の話でした。沖縄にはもう一つ、この論点を重く受け止めるべき事情があります。事業所の規模と、労働組合の薄さです。
令和3年の経済センサスによると、沖縄県の民営事業所は、従業者1〜4人が59.8%、5〜9人が18.9%を占めます。10〜19人(11.4%)と20〜29人(4.0%)を加えると、30人未満で94.1%に達します。
一方、審議会に示された調査では、「信任」で選んだ事業所のうち会社が候補者を決めている割合は、小さい事業所ほど高くなっています。
選出手続が最も緩くなりやすい規模帯に、沖縄の事業所のほとんどが入っています。「過半数代表者を選出しなかった理由」で最も多いのも「労使協定や就業規則に関する手続が発生しなかったから」で、4人以下62.3%、5〜9人63.2%。任期を決めて選出している事業所も4人以下18.8%、5〜9人23.8%にとどまり、300人以上の69.4%と大きく開きます。その都度あわてて選ぶ運用が、常態になりやすい構造です。
沖縄県の推定組織率は8.5%(令和5年6月30日現在)で、全国の16.3%のおよそ半分です。全国でも過半数労働組合がある事業所は8.2%にとどまりますが、組織率が全国の半分という沖縄では、労使協定の相手方が過半数代表者になる場面は全国よりさらに多いと考えられます。
つまりこの論点は、「うちには組合がないから関係ない」ではなく、「うちには組合がないからこそ直撃する」話です。
沖縄県の医療・福祉の従業者は111,028人で、全産業の19.0%。卸売業・小売業に次いで2番目です。事業所数も6,018で9.5%、3番目にあたります。前節で述べた効き方の違いが、そのまま県内の多くの職場に当てはまります。
直近に締結した36協定を思い浮かべながら、「はい/いいえ」でお答えください。「いいえ」が一つでもあれば、その協定は有効性を問われる可能性があります。
チェック1から8までの是正です。これらは法改正を待つ理由がありません。現行の施行規則と通達が既に求めている水準であり、いま整えておけば、法律に格上げされてもそのまま通用します。とりわけ記録を残すことが要です。適正に選出していても、記録がなければ「適正だった」と示せません。周知した文書、投票や信任の結果、実施日。この三点を残すだけで、状況は大きく変わります。
着手の時期としては、次回の36協定の更新前が最も手戻りがありません。更新のタイミングに合わせて選出手続を組み直せば、余計な工数はほとんどかかりません。
過半数代表者に関する規程の新設、複数代表制の導入、便宜供与のルールの明文化。これらは今の段階で作り込む必要はありません。法律の条文も指針の内容も、まだ固まっていないからです。ここで先回りして整備すると、確定後に作り直しになります。
報道で「過半数代表者の規制強化へ」といった見出しをご覧になることがあると思いますが、まだ決まっていません。決まっているのは、手続の適正化という方向だけです。慌てて制度を作るのではなく、日頃の手続と記録を整える。それが今の段階で最も費用対効果の高い備えです。
同じ9月16日、年次有給休暇についても論点が示されました。時季指定義務の日数について、育児休業からの復帰者や退職するなど何らかの理由により年休を与えることができる期間の短い労働者についても5日となっていることをどう考えるか。時間単位年休の上限日数(5日)をどう考えるか。そして、年休取得時に支払われる賃金を、原則として「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」とすることをどう考えるか(その際、「平均賃金」や「標準報酬月額の30分の1に相当する額」については、引き続き労使協定の締結により選択することが可能とすること)。
いずれも給与計算の実務に直接効く論点です。第2号で、医療機関・社会福祉法人の視点から取り上げます。
沖縄を拠点に、医療機関・社会福祉法人・中小企業の労務顧問として、就業規則の設計・改定、労働時間制度の構築、職場復帰支援やハラスメント対策に取り組んでいます。法令遵守と職員のウェルビーイングの両立を軸に、作業を請け負うのではなく、目指す姿にご一緒する伴走者でありたいと考えています。