2025年下半期 パーソル「はたらくソーシャル・リスニング」×沖縄統計データ統合分析
全国バズワードが映し出す 沖縄企業が今向き合うべき課題【第1回】
採用・求人市場編
本レポートは、株式会社パーソル総合研究所が公表した「はたらくソーシャル・リスニング/2025年下半期」の調査結果を参考に、全国でバズっているワードが沖縄でピンとこない理由について、沖縄労働局・毎月勤労統計調査・那覇市消費者物価指数の公表統計データを重ね合わせて分析し、江尻事務所が作成したものです。
本レポートは、江尾事務所システム担当「さくら」が江尾社労士に質問する対話形式で構成しています。さくらの問いは、多くの経営者が感じている疑問を代弁しています。登場人物は以下のとおりです。
さくら 先生、全国の人事系メディアを見ていると、大企業が求人を絞ったり、外国人材政策が変わったりと、いろいろ動きがありますよね。でも顧問先の社長さんたちに話すと、なんか反応が薄くて……。
江尾社労士 それは「言葉と現場のズレ」が起きているからです。統計データで見ると、令和7年度の沖縄は新規求人全体が前年度比▲5.9%と縮小しながら、求人の61.9%を29人以下の小規模事業所が担っています。一方で1,000人以上の大規模事業所は求人を▲24.5%も絞っています。全国ニュースで話題になる「大企業の動向」は、沖縄の中小企業経営者には直接関係がない話です。むしろ「中小企業同士が限られた求職者を奪い合っている」という構造こそが、沖縄の採用市場の現実です。
以降では、全国でバズっているワードを一つひとつ取り上げ、「なぜ沖縄ではピンとこないのか」を統計で確認します。ピンとこない理由の裏に、貴社が今向き合うべき課題が見えてきます。
さくら 「黒字リストラ」が全国SNS投稿増加率1位とのことですが、これは沖縄の経営者にも関係ある話でしょうか?
江尾社労士 「黒字なのに人を切る」という行動ができる規模の会社が、沖縄にはほとんどありません。東京商工リサーチの調査によると、沖縄では2025年の休廃業・解散が過去最多の512件となりましたが、その多くは後継者難や「人が来ないから続けられない」という理由です。「攻めのリストラ」より「守りきれずに廃業」の方が、沖縄の中小企業の現実です。
さくら つまり「黒字リストラ」がピンとこないのは、沖縄の企業規模や産業構造が根本的に違うからということですね。その裏にある本当の課題は何でしょうか?
江尾社労士 「人が来ない・定着しない状態が続けば、黒字でも廃業せざるを得なくなる」というリスクです。令和7年度のデータでは1,000人以上規模が▲24.5%、300〜499人規模も▲20.0%と中堅・大企業が求人を大幅に絞っています。大企業が撤退した後の採用市場を、小規模事業所同士が奪い合っています。「リストラができる会社」の話より、「人が来ない・辞める状況を放置すれば黒字でも廃業リスクがある」という現実を直視することが先決です。
さくら 「高度人材」は全国5位ですね。政府の外国人政策で永住権の優遇制度が注目されているようですが、沖縄の顧問先には関係がありますか?
江尾社労士 「高度人材」が指しているのは、IT・研究・経営管理など専門的・技術的分野の外国人で、高い報酬と高度なスキルが前提です。沖縄の中小事業所が求めているのはそういう層ではなく、「介護の現場で即戦力になってくれる人」「厨房で働いてくれる人」「建設現場で動ける人」です。政策論での「高度人材の誘致」は、沖縄の多くの事業所にとってそのままでは使えない話です。
さくら 「高度人材がピンとこない」理由の裏には、どんな課題がありますか?
江尾社労士 「人材の種類を選んでいる余裕がない」という現実です。令和8年4月の職種別求人倍率を見ると、建設躯体工事従事者7.69倍、建設従事者5.91倍、介護サービス3.64倍という水準が続いています。日本人求職者の53.1%がすでに45歳以上で、若年・体力系の職種に就く求職者が構造的に不足しています。「高度か否か」を議論する以前に、現場に来て働いてくれる人材をどう確保するかが喫緊の課題です。
さくら 「特定技能」は全国6位、「外国人労働者」は11位です。沖縄の事業所にも直接関係しますか?
江尾社労士 これは全国と沖縄の両方でリアルに関係するテーマです。全国では「誰をどこまで受け入れるか」という政策論で議論が活発ですが、沖縄の事業所にとっては「今すぐ現場に来てほしい」という切実な実務問題です。
さくら 外食業の特定技能受け入れについて、何か動きがありましたか?
江尾社労士 令和8年(2026年)4月13日から、農林水産省と出入国在留管理庁が外食業分野の特定技能1号の新規受け入れを原則停止しました。在留者数が受入見込数(上限5万人)に達する見込みとなったことが理由で、特定技能制度開始以来初めてのケースです。すでに在留している方の更新や同分野内での転職は引き続き可能ですが、新規の呼び寄せ・資格変更は原則不可となっています。観光・飲食業への依存度が高い沖縄には直接影響が及びます。代替採用ルートの確保と、既存外国人スタッフの定着強化が今まさに必要な実務です。
さくら 外国人材の受け入れで、事前に整備しておくべきことはありますか?
江尾社労士 外国人スタッフが来てもすぐ辞めてしまう事業所の多くに共通しているのは、就業規則の多言語対応・宿舎や生活サポート体制・労働時間管理の三点が不十分なことです。受け入れ人数を増やす前に、定着できる環境が整っているかを確認することが先決です。
本レポートのデータについてのご質問、貴社の状況に応じた個別のご相談は、江尻までお気軽にご相談ください。
作成日:令和8年5月 社会保険労務士 江尻事務所
参照資料:沖縄労働局「労働市場の動き」令和8年2〜4月分・令和7年度年次版、パーソル総合研究所「はたらくソーシャル・リスニング/25年下半期」、那覇市消費者物価指数令和8年4月分