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令和7年 賃金構造基本統計調査を読み解く ― 介護施設編

3回:シニア介護職・外国人材・これからの介護施設の賃金設計

 

あかまち理事長(100名規模・社会福祉法人/介護施設) × 江尾社労士(えび)

 

■ ベテラン介護職の「60歳の崖」

 

あかまち理事長:えびさん、今回はシニア職員の話からですね。うちの施設でも来年、開設当初からいるベテランの介護福祉士2名が60歳になります。2人とも夜勤もこなせるし、認知症対応のスキルも高い。何とか残ってもらいたいのですが、再雇用後の条件をどうするかが悩みどころです。

江尾社労士:介護施設にとってベテラン職員の経験は何物にも代えがたい財産ですね。調査データで60歳前後の賃金変化を確認しましょう。

 

【年齢階級別賃金(男女計・一般労働者)】

5054歳 388,800円(前年比 +2.2%

5559歳 396,200円(同 +1.1%) ← ピーク近傍

6064歳 329,300円(同 +3.7%) ← 5559歳比 △66,900円(△16.9%

6569歳 285,300円(同 +3.6%) ← 5559歳比 △110,900円(△28.0%

 

あかまち理事長:5559歳から6064歳で約67,000円、率にして17%近い下落。これは全産業のデータですよね。介護施設の場合、もともとの賃金が低い分、下落額は小さいかもしれませんが、率としては同程度かそれ以上の落ち込みが起きているのではないでしょうか。

江尾社労士:鋭いご指摘です。介護施設では、定年後の再雇用で「基本給を一律7割にする」といった運用が今も少なくありません。ただ、業務内容がほとんど変わらないのに賃金だけが大幅に下がるという対応は、同一労働同一賃金の観点からリスクがあります。令和2年の最高裁判決以降、定年後の待遇差にも合理性が求められています。

あかまち理事長:うちでもまさに「一律7割」でやってきました。でも、夜勤もしてもらうし、新人の指導もお願いしている。それで3割カットは、確かに本人にとっては納得しにくいですよね。

江尾社労士:そこで提案したいのは、「役割選択型」の再雇用制度です。たとえば、夜勤も含めたフルタイム勤務を続ける「現場継続コース」、夜勤は免除するが日勤帯で新人指導や認知症ケアの指導を担う「指導専任コース」、週34日の短時間勤務に移行する「パートコース」のように、複数の選択肢を用意する方法です。それぞれに応じた基本給・手当を設定することで、業務内容と賃金の対応関係が明確になります。

 

介護施設のベテラン職員は、認知症対応、看取りケア、家族との信頼関係構築など、マニュアルでは伝えきれない暗黙知を持っている。この経験を組織に残すために、再雇用後の役割を明確にし、それに見合った処遇を設計することが重要である。「一律7割」ではなく、役割に応じた複数コースの設計が求められる。

 

 

 

■ パートで残るベテラン ― 短時間労働者の賃金データ

 

あかまち理事長:60歳以降、パートに移行したいという希望もあると思います。短時間労働者のデータはどうなっていますか。

江尾社労士:調査では産業別の短時間労働者の時給も公表されています。

 

【短時間労働者の1時間当たり賃金 ― 令和7年】

《全産業・男女計》

男女計 1,518円(前年比 +2.8%

男 性 1,769円(同 +4.1%

女 性 1,418円(同 +2.2%

 

《医療,福祉・男女計》

男女計 2,113円(同 +1.3%

男 性 3,961円(同 +3.3%) 医師の非常勤を含む

女 性 1,707円(同 −2.0%

 

あかまち理事長:医療・福祉全体の女性パート時給が1,707円。ただ、これには看護師や薬剤師も含まれていますよね。介護施設のパート介護職の時給はこれより低いはずです。

江尾社労士:おっしゃるとおりです。介護施設のパート時給は、職種にもよりますが全国平均で1,1001,300円程度が相場でしょう。沖縄ではさらに低い可能性があります。ただし、ベテラン介護福祉士のパート時給は、その経験と資格に見合った水準に設定すべきです。無資格の新人パートと同じ時給では、60歳以降も残ってもらう動機になりません。

あかまち理事長:「パートになったら一律時給1,050円」ではなく、資格と経験に応じた時給テーブルが必要だということですね。

江尾社労士:そのとおりです。たとえば、介護福祉士の資格を持ち、勤続10年以上のベテランであれば時給1,3001,400円、認知症介護実践リーダー研修修了者であればさらに上乗せ、というように、スキルと経験を反映した時給設計をお勧めします。

 

 

■ 外国人介護人材の賃金と育成就労制度

 

あかまち理事長:えびさん、うちの施設でも特定技能の外国人材を受け入れる話が進んでいます。沖縄でも技能実習生を受け入れている施設が増えていますが、賃金のデータを教えてください。

江尾社労士:今回の調査では在留資格区分別の賃金が公表されています。介護施設に直結する区分を見てみましょう。

 

【外国人労働者の在留資格区分別賃金 ― 令和7年】

外国人労働者計   254,300円(前年比 +4.8%) 年齢32.5歳・勤続3.3

 

専門的・技術的分野 313,200円(同 +7.3%) 年齢32.4歳・勤続3.2

特定技能      221,400円(同 +4.8%) 年齢29.5歳・勤続2.4

身分に基づくもの  311,100円(同 +3.6%) 年齢45.0歳・勤続6.5

技能実習      190,300円(同 +4.2%) 年齢26.2歳・勤続1.7

その他       228,300円(同 +0.8%) 年齢30.1歳・勤続2.0

 

あかまち理事長:技能実習が190,300円で、特定技能が221,400円。高卒の新規学卒者の初任給が207,300円ですから、技能実習はそれより低く、特定技能は少し上ということですね。

江尾社労士:はい。ここで重要なのが、育成就労制度への移行です。技能実習制度は段階的に育成就労制度に置き換わっていきますが、育成就労制度では日本人と同等以上の報酬が求められ、一定の条件のもとで転籍(本人の意思による事業所変更)も認められます。

あかまち理事長:転籍ができるようになるというのは、沖縄の施設にとっては大きなリスクですね。賃金の高い本土の施設に移ってしまう可能性がある。

江尾社労士:そのとおりです。ただし、逆の見方もできます。沖縄は本土に比べて生活コストが低い面がありますし、温暖な気候や地域コミュニティの温かさは、外国人材にとっても魅力になり得ます。賃金だけの競争ではなく、住居支援、日本語学習の機会、職場での人間関係、キャリアアップの道筋など、「この施設で働き続けたい」と思ってもらえる環境づくりが重要です。

 

外国人介護人材の受入れで最も注意すべきは、日本人職員との処遇の公平性である。同じ介護業務を行う日本人介護職と外国人材の間に不合理な賃金差があれば、双方の不満につながる。特に処遇改善等加算の対象に外国人材も含まれることを踏まえ、加算の配分ルールを日本人・外国人を区別せず設計する必要がある。

 

 

 

■ 「長く働くこと」は報われているか ― 勤続年数と賃金

 

江尾社労士:賃金体系の再設計を考える上で、勤続年数と賃金の関係も確認しておきましょう。

 

【勤続年数階級別賃金(男女計・企業規模計)】

 0 年 274,500円(前年比 +3.0%

1〜2年 285,300円(同 +5.0%

3〜4年 297,000円(同 +4.9%

5〜9年 312,500円(同 +2.9%

1014年 333,600円(同 +2.0%

1519年 370,800円(同 +0.8%

2024年 400,400円(同 +1.9%

2529年 433,600円(同 +1.1%

30年以上 444,200円(同 +2.4%

 

あかまち理事長:勤続が短い層は35%の伸びなのに、1519年で0.8%、2529年で1.1%。長く勤めている人ほど改善が遅いんですね。

江尾社労士:この構造は第2回でお話しした賃金圧縮と表裏一体です。新しく入ってくる人の賃金は外部市場の圧力で上がりますが、長期勤続者の賃金は内部の昇給制度に依存するため、改善が遅れます。介護施設の定期昇給が年額2,0003,000円程度であれば、外部市場の動きに追いつけないのは当然です。

あかまち理事長:うちの施設の定期昇給は年額2,500円です。10年勤めても25,000円しか上がらない計算です。

江尾社労士:その昇給テーブルでは、初任給が毎年5%ずつ上がる環境には対応できません。キャリアパスと連動した昇給の仕組みを導入し、「経験を積んでスキルが上がれば、定期昇給以上の処遇改善がある」という設計に変えていく必要があります。

 

 

■ 沖縄の介護施設の賃金体系をどう再設計するか

 

あかまち理事長:3回にわたってデータを見てきましたが、結局のところ、うちの施設はどう動けばいいでしょうか。処遇改善等加算の原資を前提に、現実的な方策を教えてください。

江尾社労士:3回分のデータから見えてきた課題を踏まえ、理事長の施設に提案できる方向性は三つあります。

 

1に「キャリアパスと連動した賃金テーブルの整備」。介護福祉士、ケアマネジャー、生活相談員、介護補助者など職種ごとに、初任者中堅リーダー管理者という段階を設定し、各段階の要件(資格・研修修了・経験年数)と賃金レンジを明確にする。処遇改善等加算の取得要件でもあるキャリアパスの整備が、賃金制度の骨格になる。

 

2に「処遇改善等加算の戦略的な配分」。全員一律配分ではなく、離職リスクの高い中堅層(勤続37年)と、採用が困難な介護福祉士に傾斜配分する。配分のルールと根拠を職員に公開し、透明性を確保する。加算の取得率を最大化するために、特定処遇改善加算やベースアップ等支援加算の要件を再確認し、未取得の加算があれば取得を検討する。

 

3に「多様な雇用形態に対応した処遇体系」。正社員・パート・60歳以降の再雇用・外国人材のすべてについて、業務内容と責任の差に基づいた処遇の根拠を整備する。同一労働同一賃金の原則に照らして説明可能な制度をつくることが、法的リスクの回避と職員の納得感の両立につながる。

 

あかまち理事長:三つの方向性は分かりました。ただ、100名規模の施設で、こうした制度改革を進める体制が心配です。事務長と私でできるものでしょうか。

江尾社労士:一度にすべてを完成させる必要はありません。段階的に進めましょう。

 

短期(半年以内):沖縄のハローワーク求人データと近隣施設の募集条件を調査し、自施設の初任給と時給の競争力を確認する。処遇改善等加算の配分ルールを見直し、中堅層への傾斜配分を検討する。60歳到達予定者への面談を行い、再雇用後の希望を把握する。

 

中期(半年〜1年):キャリアパスに連動した賃金テーブルの設計に着手する。介護福祉士、ケアマネ、介護補助者の3職種から始め、段階ごとの要件と賃金レンジを策定する。再雇用制度を「役割選択型」に改定する。外国人材の受入れに備え、日本人職員との処遇の整合性を検証する。

 

長期(12年):賃金体系全体を年功序列型からキャリアパス連動型へ移行する。男女間賃金格差の分析を行い、情報公開に備える。非金銭的報酬(研修体制の充実、メンタルヘルスケア、ICT導入による業務負担軽減、職場の心理的安全性の向上)を体系的に強化する。

 

あかまち理事長:半年・1年・2年の段階に分けてもらえると、取り組みやすいですね。まずは近隣の賃金相場の調査と、処遇改善等加算の配分見直しから始めます。

江尾社労士:はい。大事なのは、「改善に取り組んでいる」という姿勢を職員に示すことです。賃金構造基本統計調査のデータを職員会議で共有し、「うちの施設はこういう状況にあるから、こういう方向で改善していく」と伝えるだけでも、職員の信頼感は大きく変わります。

あかまち理事長:ありがとうございます。3回のシリーズで、介護施設の賃金を取り巻く全体像がよく分かりました。データに基づいて、一歩ずつ進めていきます。

江尾社労士:ぜひ進めてください。100名規模の施設だからこそ、理事長の判断がダイレクトに現場に届きます。何かあればいつでもご相談ください。

 

 

■ シリーズ全体のまとめ

 

江尾社労士:3回シリーズの全体を振り返ります。

 

【令和7年 賃金構造基本統計調査 ― 介護施設が押さえるべき10のポイント】

一般労働者の賃金は340,600円(前年比+3.1%)、上昇トレンドが定着

大企業(+5.7%)と中企業(+1.0%)の格差は拡大、介護施設は取り残されやすい

医療・福祉315,700円は全産業平均340,600円を下回り、金額差は年々拡大

沖縄268,300円は全国の約79%、地域内の他産業との人材競争が激化

新卒初任給は高卒+5.0%、専門学校卒+3.5%と大幅上昇、介護施設の初任給も見直しが必要

中堅介護福祉士との賃金圧縮が深刻化、処遇改善等加算の傾斜配分が有効

非正規の賃金上昇率4.6%が正社員の2.9%を上回り、パートとの処遇バランスに注意

G 60歳の崖:5559歳比で約17%の賃金低下、「役割選択型」再雇用制度の整備が急務

外国人労働者の賃金は特定技能221,400円、育成就労制度で転籍可能に

年功序列型からキャリアパス連動型への賃金体系の転換が求められる

 

 

 

― 令和7年 賃金構造基本統計調査を読み解く・介護施設編(全3回)完 ―

 

出典:厚生労働省「令和72025)年賃金構造基本統計調査」(令和8324日公表)

 

社会保険労務士 江尻育弘