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2025年下半期 パーソル「はたらくソーシャル・リスニング」×沖縄統計データ統合分析

全国バズワードが映し出す 沖縄企業が今向き合うべき課題【第3回】

賃金・制度・定着編


本レポートは、株式会社パーソル総合研究所が公表した「はたらくソーシャル・リスニング/2025年下半期」の調査結果を参考に、全国でバズっているワードが沖縄でピンとこない理由について、沖縄労働局・毎月勤労統計調査・那覇市消費者物価指数の公表統計データを重ね合わせて分析し、江尻事務所が作成したものです。


シリーズ構成

第1回:採用・求人市場編 / 第2回:働き方・労働時間編 / 第3回:賃金・制度・定着編

本号のテーマ

「106万・103万の壁」「2025年問題」「ガラスの崖・ジェンダーギャップ」「過労死・未払い残業代」など賃金・法制度・定着に関するバズワードを沖縄統計で検証し、貴社が今取り組むべき定着・制度課題を明らかにします

本レポートの目的

全3回のシリーズを締めくくる本号では、採用した人材をいかに定着させるかという視点で統計を読み解きます。賃金・労働時間・職場環境の三つが揃ってはじめて、採用競争に勝てる職場になります。「ピンとこないワード」の裏に潜む定着リスクを確認し、今年度内に整備すべき制度を整理します

沖縄統計出典

毎月勤労統計調査地方調査(沖縄県・令和8年1〜3月分)、沖縄労働局「労働市場の動き」令和8年2〜4月分・令和7年度年次版、那覇市消費者物価指数令和8年3〜4月分


本レポートの読み方


本レポートは、江尾事務所システム担当「さくら」が江尾社労士に質問する対話形式で構成しています。さくらの問いは、多くの経営者が感じている疑問を代弁しています。

江尾社労士 社会保険労務士・健康経営エキスパートアドバイザー・医療労務コンサルタント。

さくら 江尾事務所システム担当。本レポートでは読者の視点を代弁する役割を担っている。


1. 賃金と物価:足元の数字を経営判断に使う


さくら 賃金について、毎勤統計で大きな数字が出ているようですが、どう読み取ればよいですか?


江尾社労士 令和8年2月の沖縄県全産業の現金給与総額は本系列で前年同月比+13.5%と大きく出ていますが、これはサンプル入替効果を含むため実態を表していません。同一事業所で比較した共通事業所ベースで見ると+4.9%です。この+4.9%から那覇市CPI(持家の帰属家賃を除く総合・3月時点)の+0.8%を差し引くと、実質賃金の試算は+3.3%となります。


さくら 4月分では変化がありましたか?


江尾社労士 令和8年3月分(4月公表)では共通事業所ベースの現金給与総額が▲4.0%とマイナスに転じましたが、これは賞与など「特別に支払われた給与」の減少が主因です。毎月の給与水準を示す「きまって支給する給与」は共通事業所ベースで+2.6%を維持しています。那覇市CPI(4月)+0.8%を差し引くと月給ベースの実質賃金試算は+1.8%です。賞与の単月変動に惑わされず、月給水準で継続的に把握することが経営判断の基本です。


【賃金・物価の整理】毎勤統計・那覇市CPI

【2月分対比】共通事業所ベース現金給与:+4.9% 那覇市CPI(3月):+0.8% 実質賃金試算:+3.3%【3月分対比】きまって支給する給与(共通事業所):+2.6% 那覇市CPI(4月):+0.8% 実質賃金試算:+1.8%本系列実質賃金(毎勤付表2-1):+13.4%(サンプル入替効果含む・参考値)


経営判断への活用

「共通事業所ベースの実質賃金試算+3.3%(3月基準)」は、求人票・採用面接・全社会議で「物価上昇を上回る賃金水準を維持している」という事実を示す根拠として使えます。ただし+1.8%(4月基準)へ縮小しているため、次の昇給検討時期を見据えたモニタリングが必要です。


2. 賞味期限が切れつつあるワード


@ 106万円の壁・103万円の壁(全国SNS投稿減少率1位・2位 ▲95%・▲90%)


さくら 「106万円の壁」「103万円の壁」は昨年まで非常に話題でしたが、急速に使われなくなっているんですね。


江尾社労士 税制改正と社会保険の見直し議論が進んで「壁」の意味合いが変化し、バズワードとしての寿命は終わりに近づいています。ただし実務上の影響はまだあります。パート採用をしている事業所では、スタッフの年収見込みと社会保険の加入判定を毎年確認することは引き続き必要です。「壁」という言葉を前面に出すより、「年収と社会保険の加入判定を一緒に確認しましょう」という個別対応として処理する方が現場に即しています。


さくら 沖縄のパート採用の実態と照らし合わせると、どんなことが見えますか?


江尾社労士 令和8年3月のパートタイム就職件数は前年比+7.6%・就職率109.0%と年度末に集中しましたが、4月は▲13.6%・就職率26.2%に急反落しています。「壁を意識したシフト調整」によって年度をまたいで働き方を変えるパートスタッフが、年度切り替えのタイミングで大きく動く傾向があります。新年度に入ったこの時期に、既存のパートスタッフの働き方の意向を改めて確認することを推奨します。


【統計の裏付け】令和8年3〜4月分

パートタイム就職件数:3月+7.6%(年度末集中)→4月▲13.6%(急反落)。パート有効求人倍率:3月1.09倍→4月0.95倍(1倍を割り込み)。パート就職率:3月109.0%→4月26.2%。年度切り替えに伴う大きな変動が今年も確認されています。


今すぐ確認すべき2点

@既存パートスタッフの今年度の年収見込みと社会保険加入判定を確認する。A「今の勤務時間・日数を継続したいか」をスタッフ本人に確認し、突然のシフト削減による欠員を防ぐ。


A 2025年問題(全国SNS投稿減少率3位 ▲87%)


さくら 「2025年問題」の投稿が▲87%と大幅に減っています。もう語られなくなったということでしょうか?


江尾社労士 団塊の世代が全員75歳以上になるという「警鐘フェーズ」が終わって、今は具体論の段階に入っています。「2025年問題だから介護が大変だ」という総論を語る意味は薄れており、「今月の介護求人倍率は3.64倍で、どう採用するか」という個別の実務が問われています。


さくら 沖縄の医療・福祉の求人はどう動いていますか?


江尾社労士 令和7年度の年次データで医療・福祉の新規求人が前年度比▲4.8%と本格的に減少に転じました。採用難が実際に求人行動を抑制している証拠です。内訳を見ると、医療業(病院・クリニック)は縮小が続く一方、社会保険・社会福祉・介護事業は令和8年4月に+6.2%と反転しています。介護事業所の採用担当者にとっては、月次の動向を追いながら採用活動のペースを調整することが今必要な対応です。


【統計の裏付け】令和7年度年次・令和8年3〜4月分

医療・福祉新規求人(年度):39,336人・前年度比▲4.8%(令和2年度以来の本格減少)、全産業構成比31.6%。医療業:4月▲10.4%(縮小継続)。介護事業:4月+6.2%(前月▲5.0%から反転)。月次の振れが大きいため、年度を通じた採用計画と月次モニタリングの両方が必要です。


医療・福祉事業所への問い

「処遇改善加算の申請は今年度分が完了していますか?」。加算の申請漏れは採用力の低下に直結します。4月実施の加算改定内容を確認し、未申請・申請不足があれば早急に対応してください。


3. 全国でバズっていて、沖縄でも掘り下げが必要なワード


B ガラスの崖・ジェンダーギャップ指数(全国SNS投稿増加率2位・8位)


さくら 「ガラスの崖」が投稿増加率2位で前年比+8,720%というのは驚きです。女性首相の誕生が背景にあるようですね。


江尾社労士 「ガラスの崖」とは、業績不振や危機局面でだけ女性が管理職・リーダーに抜擢される現象を指します。全国では女性活躍推進法の情報開示義務強化とも重なって話題になっています。沖縄の中小事業所では管理職の層が薄く、「ガラスの崖」という構造が起きにくい規模です。ただし医療・介護・保育という女性比率が高い職種が求人の3割超を占める沖縄では、女性スタッフのキャリアパスと処遇は切実な採用・定着課題です。


さくら 沖縄の女性職種の賃金実態はデータで見られますか?


江尾社労士 資料11(求職希望賃金と求人平均賃金の比較)を見ると、傾向が読み取れます。看護師は令和8年3月に求職希望が270,672円に対して求人平均が255,347円と、求職者の希望が求人を約15,000円上回っていました。4月には求人が261,534円・求職が248,289円と逆転しており、求人賃金の引き上げが起きています。介護サービスも同様に求人賃金が希望を上回っています。「女性が多い職種ほど賃金が低い」という傾向は残っていますが、改善の動きは始まっています。


【統計の裏付け】令和8年3〜4月分 資料11(求職希望賃金 vs 求人平均賃金・フルタイム月給)

看護師:3月 求職270,672円 > 求人255,347円(▲15,325円)→ 4月 求職248,289円 < 求人261,534円(+13,245円)と逆転。介護サービス:3月 求職193,256円 < 求人216,147円(+22,891円)→ 4月 求職199,556円 < 求人211,933円(+12,377円)。賃金改善の方向は出ていますが、他業種との格差は依然として残っています。


貴社への示唆

「ガラスの崖」「ジェンダーギャップ」のままで使うより、「看護・介護・保育職の賃金水準と非賃金条件を可視化し、女性スタッフの定着率を上げる」という実務提案に落とし込む方が現場に届きます。処遇改善加算の申請・活用と、育児介護休業規程の整備が具体的なアクションとして直結します。


C 過労死・未払い残業代(全国SNS投稿増加率15位・19位)


さくら 「過労死」「未払い残業代」も増加率の上位に入っています。第2回で所定外労働時間の増加を確認しましたが、つながりますか?


江尾社労士 直接つながります。毎勤統計で運輸業・郵便業の所定外労働時間が+40.6%・情報通信業+20.0%という数字が出ています。36協定の上限に接近しているリスクがある業種です。未払い残業代は、タイムカードの打刻と給与明細を突き合わせれば多くのケースで確認できますが、「みなし残業の設定時間を実績が超えている」「管理職扱いだが実態は現場スタッフと同じ働き方」というケースで発生しがちです。


さくら 雇用保険受給資格決定件数が3月に急増したのも、関係していますか?


江尾社労士 可能性があります。令和8年3月の雇用保険受給資格決定件数は前年同月比+21.6%と急増しています。月間有効求職者自体は▲5.2%減少しているのに受給資格決定が増えているということは、雇用保険が適用される正規・準正規雇用からの離職が増えていることを示唆しています。過重労働や未払いによる離職が含まれているとしたら、定着投資の重要性を示すデータです。


【統計の裏付け】毎勤統計・令和8年3月分

運輸業・郵便業 所定外労働時間:+40.6% 情報通信業:+20.0% 雇用保険受給資格決定:+21.6%(月間有効求職者▲5.2%なのに急増) 全産業離職率:2.04%(良好水準だが業種差に注意) 自己都合離職:12,791人(前年比▲3.3%だが絶対数は大きい)


今すぐ確認すべき3点

@36協定の特別条項の年間上限(720時間)・月間上限(100時間未満)と現在の残業実績を照合する。Aみなし残業(固定残業代)を設定している場合、実際の残業時間がみなし時間を超えていないか毎月確認する(超過分は別途支払義務あり)。B「管理監督者」として残業代を支払っていないスタッフが、実態として管理監督者の要件を満たしているか就業規則と照合する。


4. シリーズまとめ:採用・働き方・賃金は一本のライン


江尾社労士 第1回から第3回を通じて見えてきたことを整理します。採用・働き方・賃金と定着は、実は一本のラインでつながっています。「採用しても定着しなければ、採用コストが無駄になる」「定着しなければ既存スタッフの負荷が増え、さらに離職が連鎖する」というサイクルです。令和7年度の就職率は27.2%まで低下しており、求人を出しても採用に至らない期間が長くなっています。この現実を踏まえて、賃金・労働時間・職場環境の三位一体の整備を今年度中に進めることが、来年度以降の採用競争に勝てる事業所になるための土台です。


課題の軸

沖縄統計が示す実態

今年度中に取れるアクション

採用(入口)

就職率27.2%・正社員充足率11.6%・45歳以上53.1%

求人票の賃金明示強化/ミドル・シニア採用設計/外国人材受け入れ体制整備

賃金

実質賃金試算+3.3%(3月)→+1.8%(4月)と縮小傾向

月給ベースでの賃上げ訴求/業務改善助成金・キャリアアップ助成金の活用検討

労働時間

全産業所定外+12.6%・運輸+40.6%

36協定の上限照合/月次モニタリング開始/みなし残業の実績確認

定着(出口)

雇用保険受給+21.6%・離職率2.04%

1on1の定期実施/有給取得5日の確保/メンタルヘルス相談窓口の設置

制度整備

処遇改善加算・女性活躍推進法開示義務・育介規程

加算申請の確認・整備/就業規則の外国人対応点検/育児介護規程の最新化


3回シリーズを通じた結論

「全国でバズっているワードがピンとこない理由」は、沖縄の産業構造・企業規模・求職者の年齢構成という固有の条件から来ています。その「ズレ」を確認することで、貴社が今本当に向き合うべき課題が浮かび上がります。有効求人倍率・実質賃金・所定外労働時間・雇用保険受給——この4指標を毎月モニタリングし、今月の数字で今月の判断をする。そのための伴走支援を、江尻事務所はご提供しています。


本レポートのデータについてのご質問、貴社の状況に応じた個別のご相談は、江尻までお気軽にご相談ください。

作成日:令和8年5月 社会保険労務士 江尻事務所

参照資料:毎月勤労統計調査地方調査(沖縄県・令和8年1〜3月分)、沖縄労働局「労働市場の動き」令和8年2〜4月分・令和7年度年次版、那覇市消費者物価指数令和8年3〜4月分、パーソル総合研究所「はたらくソーシャル・リスニング/25年下半期」