2025年下半期 パーソル「はたらくソーシャル・リスニング」×沖縄統計データ統合分析
全国バズワードが映し出す 沖縄企業が今向き合うべき課題【第2回】
働き方・労働時間編
本レポートは、株式会社パーソル総合研究所が公表した「はたらくソーシャル・リスニング/2025年下半期」の調査結果を参考に、全国でバズっているワードが沖縄でピンとこない理由について、沖縄労働局・毎月勤労統計調査・那覇市消費者物価指数の公表統計データを重ね合わせて分析し、江尻事務所が作成したものです。
本レポートは、江尾事務所システム担当「さくら」が江尾社労士に質問する対話形式で構成しています。さくらの問いは、多くの経営者が感じている疑問を代弁しています。
さくら 全国では「働き方改革の総括」として、裁量労働制の対象拡大要望や出社回帰論争など、働き方をめぐる議論が活発ですね。沖縄の実態はどうでしょうか?
江尾社労士 まず毎勤統計で実態を確認しましょう。令和8年2月の沖縄県全産業の所定外労働時間は前年同月比+12.6%です。特に運輸業・郵便業は+40.6%と突出しており、ドライバー不足を残業で補っている実態が数字に表れています。「どう柔軟に働くか」という議論の前に、「時間外労働が増えていて管理しきれていない」という足元の問題があります。
さくら 「ハイブリッドワーク」はAmazonの週5出社復帰の話題と絡めて再燃していますね。沖縄の事業所にも関係がありますか?
江尾社労士 「週に何日出社するか」という議論は、オフィスワーカーが前提です。沖縄の求人市場を見ると、建設躯体工事7.69倍・接客・給仕5.14倍・介護サービス4.64倍と、「現場に行かなければ成り立たない仕事」が求人市場の主役です。テレワーク可能な情報通信業の求人は、令和7年度で前年度比▲23.0%・令和8年4月でも▲16.1%と縮小が続いています。
さくら 「ピンとこない」理由の裏に、どんな課題があるのでしょうか?
江尾社労士 「柔軟な働き方」より「最低限の休みが取れているか」が先にある、ということです。所定外労働時間が全産業で+12.6%増えている状況では、シフト設計の柔軟化・有給取得の確保・労働時間管理の適正化が急務です。「ハイブリッドワーク」は今の沖縄の事業所が議論すべき順番ではありません。
さくら 「ABW」は全国でも使われなくなっているんですね。
江尾社労士 コロナ禍のオフィス再設計文脈で一時的に広まったワードで、全国でも既に下火です。沖縄では大規模オフィスを持つ企業が少なく、そもそも定着したことがありませんでした。このワードをセミナーや社内資料で使うと、情報の鮮度が下がって見えますので注意が必要です。
さくら 「シャドウワーク」は前年比5,000%増という大バズワードです。介護や保育の現場に関係しますか?
江尾社労士 概念としては現場に存在しています。ケアマネジャーが本来業務外の家族対応をこなす、保育士が持ち帰りで連絡帳を書く、施設長が深夜に緊急対応する——これは全部シャドウワークです。ただし「シャドウワーク」というカタカナが、現場のスタッフにとって外来語として浮いて聞こえます。
さくら 「ピンとこない」の裏にある課題は何でしょうか?
江尾社労士 「持ち帰り仕事やサービス残業が、見えない形で労働時間として積み重なっている」というリスクです。毎勤データで所定外労働時間が+12.6%増加している中に、カウントされていない隠れ残業が含まれている可能性があります。これが未払い残業代の請求リスクや、スタッフの疲弊・離職につながります。
さくら 「ワーク・ライフ・バランス」が増加率4位というのは、以前からある言葉なのに意外でした。
江尾社労士 働き方改革の総括論争や労働時間規制見直しの議論を背景に、経営側・個人側の両方から言及が増えています。経営側は「行き過ぎたホワイト化で人が育たない」という懸念を、個人側は「長時間労働で体を壊す」という問題を訴えています。沖縄では慢性的な人手不足で一人当たりの負荷が高い医療・福祉・観光・飲食の現場で、切実な問題として受け止められています。
さくら 採用や定着にも関係しますか?
江尾社労士 直接関係します。今の局面は実質賃金がプラスを維持しています(毎勤統計・共通事業所ベース名目賃金+4.9%、那覇市CPI+0.8%差引で試算+3.3%)。「賃金も物価上昇を上回って上がっていて、かつ働きやすさも整備しています」というメッセージが、採用競争を優位に進めるための実質的な武器になります。ただ令和8年3月分対比では試算実質賃金が+1.8%に縮小しているので、継続的なモニタリングが必要です。
さくら 「裁量労働制」が全国7位と急上昇していますが、沖縄の事業所に提案できますか?
江尾社労士 対象となる業務が法令で厳しく限定されているため、沖縄の中小事業所で適用できるケースは非常に限られます。「専門業務型19業務」(研究者・SE・デザイナー等)か「企画業務型」(本社の企画・立案部門等)に該当しない限り導入できません。新規求人の64.4%が29人以下の小規模事業所という沖縄の構造では、対象になる事業所がほとんどありません。
さくら では「裁量労働制」が話題になっている今、沖縄の事業所が本当に確認すべきことは何でしょうか?
江尾社労士 「今の36協定の内容と実際の残業時間が合っているか」の点検です。運輸業+40.6%・情報通信業+20.0%と所定外労働が大幅増加している中で、36協定の上限に近づいていないかを今すぐ確認してください。多くの企業で36協定は4月始期ですので、年度最初の今がモニタリング開始のタイミングです。
本レポートのデータについてのご質問、貴社の状況に応じた個別のご相談は、江尻までお気軽にご相談ください。
作成日:令和8年5月 社会保険労務士 江尻事務所
参照資料:毎月勤労統計調査地方調査(沖縄県・令和8年1〜3月分)、沖縄労働局「労働市場の動き」令和8年2〜4月分・令和7年度年次版、那覇市消費者物価指数令和8年3〜4月分、パーソル総合研究所「はたらくソーシャル・リスニング/25年下半期」